

「命の公共事業」 浅野川水害の教訓から
岡田 全国を駆け巡って大変お忙しい月尾先生に対談の機会をいただき、有り難うございます。今日は先生が日ごろ説いておられる水と緑をキーワードにして、いかに地球を救い、日本を救い、私たちのふるさと石川を救うか、語り合ってみたいと思います。
月尾 私は石川県が好きで、よく訪れています。能登島をカヌーで回ったこともあり、白山の自然や信仰にも心ひかれます。いま私たちが立っている金沢・浅野川も風情があり好きな場所です。
岡田 同じく金沢市内を貫く犀川が「おとこ川」と呼ばれるのに対して、浅野川は「おんな川」と呼ばれる優美な川です。しかし、その浅野川が平成20年には時間雨量138㍉という空前の集中豪雨で氾濫し、主計町の茶屋街や上流の湯涌温泉など情緒ある町並みが泥の海になりました。石川県でも気候が凶暴化していると感じました。
月尾 浅野川の水害の原因について即断はできませんが、大きく言って世界各地で地球温暖化による気候変動が生じていることは否定できません。
岡田 水害の朝、金沢にいたので防災服を着て浅野川の上流、下流を駆け回り、被害を確認し、住民を激励しました。その後、上京して国から激甚災害の指定を受け、比較的速やかに復旧復興ができましたが、未然に災害を防ぐことの大切さを痛感しました。

浅野川はんらんの跡を視察する 岡田直樹参議院議員
鳩山由紀夫前首相は「コンクリートから人へ」「命を救う」をスローガンにしていますが、人の命を救うためにコンクリートが必要でないかというと、決してそうではないでしょう。私は治山治水など「命の公共事業」はどんどん積極的に行うべしという考え方で、景気・雇用対策と兼ねた「石川版グリーンニューディール政策」を推進したいと思っているんです。
月尾 確かに、これからの公共投資のキーワードは環境と防災だと思います。
「猿の惑星」ロケ地から帰って 日本の山河に涙
岡田 それにしても、ふるさとの水と緑には心がなごみます。昨年、私はソマリアの海賊対策で協力してもらっている隣国のジブチに行きました。ジブチは世界で最も暑い国と言われ、雨がほとんど降らず、国土の大半は砂漠か不毛の荒野です。映画「猿の惑星」のロケ地だったと言えば分かりやすいでしょう。
日本の青年海外協力隊員が苦労して農業の実験をしていましたが、日本から持ち込んだ18種類の野菜の種は高温と乾燥で死に絶え、育ったのはキュウリだけということでした。そのジブチから戻って日本の山河を見た時は、思わず涙がにじみました。何と恵まれた国だろうと思って。
月尾 同様に、私もモンゴルから帰国し、飛行機が成田上空に到着したときには涙が出ました。
日本列島を南西諸島から北海道まで空撮したビデオがあります。私が見ても感動しますが、これを若い自衛隊員に見せると「これが俺たちの守る国なのだ」と発奮するらしいです。そのくらい日本の自然は素晴らしいし、これほど恵まれた国土は世界に多くはない。このことを多くの国民、そして政治家は知らねばならないと思います。

復旧した浅野川を背に東大名誉教授月尾嘉男氏と語り合う
岡田 国を守る―安全保障は軍事面だけではありません。環境、食糧、エネルギー、それから教育文化の安保もあるでしょうね。
人間と水 日本が自給できる資源は2つだけ
月尾 そうした広い意味での安全保障を考えると、私はいま日本が自給できている資源はたった二つ、水と人間だけだと思っています。
岡田 なるほど。少子化や学力低下という問題はあるにせよ、やはり日本にが持つ最大の資源は人材でしょうね。明治以来、いや江戸時代からの高い教育水準がなければ、日本はここまでの国にはなりませんでしたね。
月尾 その通りです。しかし、最近いろいろな統計や国際的な比較を見ると、日本の教育水準は順位が急速に下がっています。OECDが3年に1回おこなう中高生の学力検査で日本は過去3回続落しています。日本の子供が世界一なのはテレビを見る時間の長さと宿題をやる時間の短さだという、笑えない話もあります。
「水の安全保障」 日本の森林を買う中国
岡田 日本が自給できる資源の一つ、人材の育成は教育安全保障という視点からも最大限の力を注いでいきたいと思います。もう一つの自給可能資源は今日の本題である水ということですが、水資源の状況をどうお考えですか。
月尾 いま日本は国民が水に困らない数少ない国ですが、これも将来的な水の安全保障を考えねばなりません。たとえば中国が日本の森林を買収しようとしているという噂があります。すさまじい経済成長の半面、中国では水不足が進行しています。
中国が日本の森林を買う狙いの一つは木材ですが、もう一つは地下に眠っている水です。こうした外国の動きに対して日本には規制がなく、いま林野庁が検討を始めたところです。あまりにも水に恵まれているので、水の安全保障という発想が全く欠けていたのです。
岡田 水の安全保障は食糧安全保障とも深く関連すると思います。農業は水がなければできません。いま日本の食糧自給率は40%に満たない状況ですが、自給率を上げようとすれば、もっと多くの水が要ることは明らかですね。
食糧完全自給には 倍の水が要る
月尾 その通りです。現在、日本は外国の水で作った農作物を大量に輸入しています。これが長期的に輸入可能ならいいが、やはり中国が世界中の穀物を押さえようとしていて、いつまでも日本が買えるとは限りません。当然、自給率を高めねばならない。
いま日本は雨や雪として降る水の20%を使っていますが、食糧を全部自給しようとすると、今の倍の40%を使うことになります。まだ60%あるではないかと思うのは間違いで、それ以上取水したら川は干上がり、生態系が壊れてしまいます。
岡田 食糧の完全自給を目指すとすれば、日本も決して水が余っているわけではないのですね。水の需要が伸びないから「ムダなダム」を作るなという声も強いが、一概にそうも言えないのですか。
月尾 いま日本にダムは約3000あるのですが、そこに貯められている水をすべて合計しても、アメリカのコロラド川に1936年に建設されたフーバーダムの貯水量の半分にしかなりません。日本が食糧自給率を100%に近付けようとすれば、現在の倍の水が必要となり、利水ダムも新たに必要になる計算です。

●日本が食糧自給率を100%に近づけるには、今の倍の水が要り,利水ダムも必要になるという月尾名誉教授●日本も決して水が余っているわけではなく、「ムダなダム」とは一概に言えないという岡田議員
白山、能登の 森林再生が急務
岡田 今の政権は「八ツ場ダム」をはじめ全国のダム計画を見直すとしていますが、私は水の安全保障、食糧安全保障という長期的な視野に立って必要なダムは整備すべきという考え方です。
ただ、適切なダムの整備と同時に、他の方法による水資源の確保も重要です。その意味では「緑のダム」と呼ばれる森林の再生を急ぎたい。これは与野党を超えて断行すべき仕事だと思っています。
月尾 戦後は材木が売れたので、お金になる針葉樹を植え過ぎた嫌いがあります。スギ花粉の問題もさることながら、針葉樹は広葉樹と比べて保水力が落ちます。針葉樹は根も浅く張るので、土壌の侵食を防ぐ役割も小さいようです。そろそろ針葉樹を伐採したあとは、広葉樹に植え替えることを検討すべきです。
岡田 率直に言って、国の林政は失敗が多かったと思います。国や自治体が相当の補助金を出しても、広葉樹林の復元は進めましょう。きょう植えてあす役立つというものではないが、長い目で国土を守るのが政治というものだと思います。
石川県でも林業後継者が少なく、白山ろくや能登の山林が荒れていくのを見るに忍びない。ちゃんと間伐して山林を再生させることを、環境保全型の公共事業として大いにやりたい。若い人たちの就業機会になるような、教育を含めた仕組みづくりを考えていきます。
「白いダム」 雪が減っていく!
月尾 気象庁が予測した100年後の降雪量のデータをみると、北陸、東北、北海道では大幅に減るとされています。森林が「緑のダム」なら、雪は「白いダム」です。梅雨が始まるまでの雨の少ない時期に田畑が潤い、田植え時に水があるのは雪解け水のおかげです。
その雪が減っていくと、日本の農業はどうなるか大きな問題です。飲み水も含めて、国の水資源担当者はそこまで考えていないのではないかと思います。岡田議員にはぜひ100年先を見据えた政策を率先して考え、実行していただきたいと思います。
岡田 「白いダム」というネーミングは素晴しいですね。われわれの石川県を象徴する白山などは「緑のダム」であると同時に「白いダム」でもあるわけですね。この天然のダムと人工のダムをどう調和させていくかが、今後の課題の一つだと思います。
月尾 石川の美田が持つ保水機能も大変なものです。

「白いダム」であり「緑のダム」である霊峰白山
岡田 食糧問題だけでなく、環境、景観を守る意味でも農業は本当に大切ですね。青々とした水田を見ると、やはり日本は豊葦原瑞穂国だと思う。逆に耕作放棄地を見ると胸が痛みます。ふるさとの田んぼを守りたい、畑を守りたい。
私も輪島の千枚田にほんの小さな一枚ですが「マイ田んぼ」を借りて田植えや稲刈りのお手伝いをしています。千枚田は一枚一枚が狭くて機械も入らず、農家の後継者も少ないので、ボランティアの支援がないと維持していけないのです。

輪島の千枚田で稲刈りをする
環境にも大事な 「地産地消」
月尾 「地産地消」という言葉は、地域の一次産業を守るという観点に加えて、環境配慮という意味合いも大きくなってきました。「フードマイレージ」という概念は食糧がどのくらいの距離を運ばれてきたかを示すものですが、たとえばニュージーランドから持ってきたカボチャを食べるのと、石川県のカボチャを食べるのでは、輸送エネルギーの関係で二酸化炭素の排出量が9倍も違うということです。身近で栽培されるので安全性が確認しやすいことも「地産地消」の利点です。
岡田 これまで一次産業について「保護主義」というと後ろめたいイメージが強かったのですが、今は「環境保護主義」と言って強い主張をしてもよいように思います。
月尾 市場主義を推し進めるアメリカも実際はさまざまな規制を設けています。「安全保障上、譲れないものがある」と彼らははっきり言います。世界的な食糧危機が迫っているなか、食糧問題では国益第一に考えるのが自然です。
経済の論理だけで農業を語っていると取り返しのつかないことになります。農業や林業は大変な価値のある産業であり、社会全体がその価値を認め、新しい社会の方向性を見出していかねばなりません。

ダイコンの収穫を手伝う岡田議員













